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大阪家庭裁判所 昭和40年(少ハ)3号 決定 1965年3月25日

少年 S・I(昭二四・六・一生)

主文

少年を中等少年院に戻して収容する。

但しその期間を収容した日から一年とする。

理由

近畿地方更生保護委員会からの本件申請の要旨は少年は昭和三八年一〇月三一日当家庭裁判所に於て虞犯保護事件によつて初等少年院送致の決定を受け宇治少年院に入院中のところ昭和三九年一二月一四日同少年院を仮退院し寝屋川市○○父S・Rの許に帰住し爾来大阪保護観察所の保護観察下にあるものであるが (1)昭和三九年一二月○○日頃から寝屋川○○中学校の同級生○村○子に対し偽名で手紙を出したり休憩時間に無断で同中学校教室に入り同女に話しかけ同女が忌避的態度をとると「殴つたろか」と暴言を吐き (2)昭和四〇年一月中旬昼食休憩時間中同中学校運動場で無免許でマフラーを取り外した自動二輪車を騒音をたてて運転し (3)同月中旬頃放課後同中学校教室で在校生三人位と喫煙し (4)同年二月上旬頃○橋某と共に放課後同中学校に侵入し机に自己の名を彫り込んで破損し (5)同月○○日同中学校で同校生伊○清を脅迫して現金一〇〇円を喝取し (6)同月△△日同中学校体育館裏で同校生○尾○則を手拳で殴打し (7)同月××日頃同中学校体育館で同校生○本○憲を手拳で殴打して現金一〇五円を喝取し (8)同年三月○日同中学校に侵入し廊下や運動場で口笛を吹き歩き授業を妨害したものであつて以上の事実は犯罪者予防更生法第三四条第二項第二号に違背しており少年の軽卒自制力欠如即行的自己顕示的な性格及び無反省遊惰な生格態度勤労意欲の欠陥保護者の保護能力の不足等よりして非行を続発する危険性が高いので少年院に戻して矯正教育を施し本人をして自律的に社会規範に順応できるよう資質の改善を計ることが少年の将来の更生のため最善の方法であると思料し犯罪者予防更生法第四三条第一項に基き少年を少年院に戻し収容すべき旨の決定を求めるというのである。

当裁判所は上記申請の理由である事実はいずれも真実と認める。そして少年調査記録中家庭裁判所調査官補今井久子作成の意見書記載と同一の理由によつて少年を中等少年院に戻して収容し矯正教育を施すを相当と思料するので犯罪者予防更生法第四三条第一項少年院法第一一条第三項少年審判規則第五五条によつて主文のとおり決定する。

(裁判官 谷村経頼)

参考

昭和四〇年三月二四日

家庭裁判所調査官補 今井久子

裁判官 谷村経頼殿

意見書

昭和四〇年(少ハ)第三号 少年S・I 昭和二四年六月一日生

上記少年は戻収容申請の許可の決定を相当と思料する。

理由

○ 少年は、少年院仮退院中のものであるが、犯罪者予防更生法第三四条第二項の遵守事項及び同法第三一条第三項によつて定められた特別遵守事項に違反し、寝屋川○○中学校に登校を許可されなかつた事に失望して、怠惰な生活を送り、更生の意欲なく問題行動を繰り返しており、現段階のまま保護観察を継続する事は、本人の自助更生の意欲の程度から推して、非行を続発する危険性は高い事を理由に、戻し収容の申請がなされたものである。

○ 仮退院後の少年の生活を検討するに、少年は父方に居住を指定されているにも拘らず、実兄方に寝泊りし、怠惰な生活を続け、小遣い銭に不足しては、恐喝行為を繰り返したり、学校の先生の同情を良い事にして小遣い銭をねだり浪費を重ねてきた。地域の犯罪少年、非行少年との交友もみられ、更生意欲は乏しく、犯罪的危険性はかなり強いものと考えられる。

○ 本件の起因は、少年仮退院時の環境調整、受入れ体勢の悪さにあるものと考えられる。学齢時の少年の場合、少年院在院中に学校側と充分な連絡、打ち合せをなし、復学させうるか否かを充分に検討し、退院後の少年の生活方針をきちんと定めて、退院までに少年及び保護者に就学なり就職なりの準備、心構えをさせておくべきである。

本少年の場合、学校との連絡が不充分であつた為、少年の生活方針に混乱があつた事、及びそうした状況にあつて少年自身及び保護者に更生意欲の乏しかつた事、等が原因となつて少年に乱れた生活を送らせるようになつたものと考えられる。

○ 上記理由は、充分に考慮すべきであるが、<1>少年が仮退院後、登校もせず、就労もせず、無為な日々を遊惰に送り、かなり乱れた生活態度を身につけている事<2>一度兄の世話で就職したにも拘らず、僅か四日間就職したのみで、少年に就労意欲が認められないと共に、意志の持続性に欠け、安易な生活を好む傾向の非常に強い事<3>少年に不良顕示性不良親和性が著しく認められ、攻撃性、威嚇的行為に出る傾向を示し、仮退院後の行動からはヤクザ的な生活観も認められる。<4>さらに慎重さを欠き、軽卒で、意欲が発動しやすく、また内省力は極めて乏しい。<5>上記少年の段階では、保護者の保護能力の限界を超えているものであり、拘束力を強化して、積極的に非行を促進する因子を除去しなければならないと考えられる。

補導委託による試験観察によつて、行動観察をしながら、意志の持続性、耐性を養い、就労意欲を身につけさせ、家族的な雰囲気の中で少年の未成熟な社会性を成長させる事も一応考えられるが、<1>現段階で非拘束で少年を委託に附しても安定せず、すぐに逃走し再犯を繰り返す虞れのある事<2>社会的未成熟であるので、補導委託による短期間の指導では問題は解決し得ない事等が考えられ、やはり収容の上、矯正教育を施すのが適当であると判断される。

なお、少年にはできうる限り、個別的に処遇される事が望ましく、できればカウンセリング等を実施される事が少年の更生に役立つものと考えられる。

退院時には、実母方の調査、連絡もされ、充分な環境調整をなされる事が望まれる。

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